コラム
神奈川県藤沢市・蓄電施設のパワーコンディショナー騒音対策事例|住宅地に配慮した防音壁施工
本記事では、ブルアンドベアの施工事例として、神奈川県藤沢市の蓄電施設で実施した「パワーコンディショナー(PCS)」の防音対策をご紹介します。
今回の計画地は、敷地から100m以内に住宅地が隣接しているため、施設の設計段階から設備騒音への細やかな配慮が求められていました。そこで、設備稼働後の近隣トラブルを未然に防ぐべく、計画段階から本格的な防音対策を組み込んでいます。
今回は、既設の防音ボックスの外側を大型の防音壁で囲い込む「二重の防音構造」を採用しました。蓄電施設や各種設備機器の騒音対策、住宅地に近い現場での対策をご検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
ご依頼いただいた背景
今回ご相談をいただいたのは、神奈川県藤沢市に新設される蓄電施設です。太陽光発電や蓄電池システムの販売・施工を手がける企業様より、弊社Webサイトを通じてお問い合わせをいただきました。
計画地の周辺100m以内には住宅地が広がっており、施設の稼働後に設備音が近隣環境へ影響を及ぼすことが懸念されていました。「稼働後に騒音苦情が出てから慌てて対応するのではなく、設計段階から万全の防音対策を講じておきたい」というのが、お客様からのご要望でした。
施設に導入される蓄電池自体は低騒音仕様でしたが、充放電に必要な電力変換を担うパワーコンディショナー(以下、PCS)は、稼働音への配慮が必要な設備です。そのため、本プロジェクトではPCSを重点的な対策対象としました。
PCSは、蓄電池などから送られる直流電力を交流電力へ変換する設備です。その稼働時には、冷却ファンによる「空気音」、インバータやリアクトルから生じる「電磁音」、本体や架台から伝わる「振動音」などが複合的に発生します。これらが混ざり合った「ジー」「キーン」という特有の高周波音は、耳につきやすく不快感を与えやすいという特徴があります。
防音対策の方針
今回の現場では、あらかじめPCS本体を他社製の防音ボックスで囲う計画となっており、弊社が携わった時点ですでに防音ボックス本体の設置は完了していました。
この防音ボックスは鉄板の内側に吸音材を施した構造で、内部の熱対策としてエアコンや換気設備も備わっていました。
この防音ボックスは鉄板の内側に吸音材を施した構造で、内部の熱対策としてエアコンや換気設備も備わっていました。
一見すると「すでに防音ボックスがあるなら、これ以上の対策は不要ではないか」と思われるかもしれません。しかし、課題となったのは「防音ボックスに付帯するエアコン室外機や換気設備そのものからも稼働音が発生する」という点でした。
そこで、既設の防音ボックスをさらに外側から大型の防音壁で囲い込み、付帯設備の音までまとめて抑え込む方針を策定。ブルアンドベアは、この外側を覆う四周防音壁の設計・施工を担当することになりました。
数値上は極端に高い騒音レベルではないものの、防音ボックスと防音壁を組み合わせる「二重の対策」は珍しいケースといえます。近隣に住宅地を控えているからこそ、将来のリスクを徹底して排除する「念には念を入れた万全の対策」が採られることとなりました。
すでに防音設備が導入されている現場であっても、付帯設備や立地条件によっては十分な静粛性を確保できない場合があります。ブルアンドベアでは、現場の環境条件を多角的に検証し、必要に応じて最適な複合対策をご提案しています。
すでに防音設備が導入されている現場であっても、付帯設備や立地条件によっては十分な静粛性を確保できない場合があります。ブルアンドベアでは、現場の環境条件を多角的に検証し、必要に応じて最適な複合対策をご提案しています。
防音壁の仕様
今回設置した防音壁は、幅約7.0m×奥行き約11.5m×高さ4.0mという四周囲いの大型構造物です。大面積の壁面によって、既設の防音ボックス全体を包み込む構成となっています。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 防音壁の寸法 | 幅約7.0m×奥行き約11.5m×高さ4.0m |
| 使用パネル | QオンVZ 70mm厚 |
| パネル枚数 | 108枚 |
| パネル重量 | 約3,100kg |
| フレーム重量 | 約2,500kg |
| 総重量 | 約5,600kg |
| フレーム | BH-100×100mm、BH-100×70mm、BH-70×70mmなどのアルミフレーム |
| 仕上げ | 標準仕上げ・アルミシルバー色 |
| 出入口 | 両開き扉・グレモンハンドル仕様 |
| 控え柱 | 12カ所 |
防音パネルには、遮音・吸音性能に優れた弊社の防音パネル「QオンVZ70」を計108枚採用しました。
出入口には両開き扉を配置し、ハンドルには扉を枠へ強固に引き寄せて密着させる「グレモンハンドル」を採用。閉鎖時の隙間を極限まで減らし、音漏れを防止しています。
出入口には両開き扉を配置し、ハンドルには扉を枠へ強固に引き寄せて密着させる「グレモンハンドル」を採用。閉鎖時の隙間を極限まで減らし、音漏れを防止しています。
また、本防音壁は内側を「吸音面」、外側を「遮音面」としたハイブリッド構造としています。
設備側の内面はパンチング加工(開口)の内側に吸音層を設けて騒音源からの音をしっかりと吸収。外側はフラットな高密度遮音面とすることで、内外の両面から周辺環境への音漏れを遮断します。
設備側の内面はパンチング加工(開口)の内側に吸音層を設けて騒音源からの音をしっかりと吸収。外側はフラットな高密度遮音面とすることで、内外の両面から周辺環境への音漏れを遮断します。
また、本防音壁にはあえて屋根を設けず、既設ボックスとの間に十分な離隔スペースを確保しました。防音性能のみを追求するのではなく、日々の点検・メンテナンス時の作業動線や放熱性まで考慮した、長期運用しやすい設計としています。
防音壁を支える構造
高さ4.0m、周囲約37m(幅約7.0m×奥行き約11.5m)におよぶ防音壁は、総重量が約5.6tに達する大規模な構造物です。これほどのスケールになると、遮音性能だけでなく「壁面を安全に支え続ける耐風構造」が極めて重要な課題となります。
特に最大の設計ポイントとなったのが、「風圧(風荷重)への対策」です。
防音壁は壁面が高く広くなるほど風を受ける面積が増大し、柱や基礎の緊結部に莫大な負荷がかかります。今回のケースでも、壁面側の主柱とそれを支える控え柱(補助柱)を繋ぐ水平の「つなぎ材」部分に、集中的に応力がかかってしまうことが懸念されました。
そこで今回の設計では、壁面側の柱と内側の控え柱を「水平材」および「斜材」で立体的に結び、強固な三角形状支持構造を構築しました。これにより、壁面が受けた風の横力をスムーズに控え柱と基礎へ分散・伝達させ、特定の柱や接合部に過度な負荷が集中しない安全な構造を実現しています。
この控え柱を要所計12カ所に配置。既設の防音ボックスと防音壁の間の限られたスペースをミリ単位で活用し、無駄のない補強レイアウトを完成させました。
大規模な屋外防音壁や高所での施工においては、パネル自体の遮音性能にとどまらず、風荷重を受ける柱や控え構造、基礎への緊結に至るまでトータルで構造計算・設計することが不可欠です。
搬入時に工夫したポイント
今回の防音壁工事では、108枚の大型パネルをはじめ膨大なフレームや金物部材を使用します。しかし設置現場は住宅街に近接しており、現場への進入路は「4t車まで」に制限されていたため、資材搬入のプロセスにも綿密な工夫が求められました。
大型トラックでの一括搬入は行わず、4tトラック2台に小分けして搬入を実施。さらに当日は他業者の工事も並行して進んでおり、トラックを長時間進入路に停車させておくことができない状況でした。そこで現場にフォークリフトを事前手配し、荷降ろし作業を機械化することで、停車時間を大幅に短縮させました。
新設工事の現場では、複数の施工業者が限られた敷地内で同時に作業を行うことも少なくありません。閑静な住宅地に近い環境であれば、施工中はもちろんのこと、部材の搬入・搬出時の段取り力こそが、現場全体の安全とスムーズな進捗を左右します。
「近隣環境への負荷を減らし、施設のスムーズな稼働を支える」という防音工事の原点を大切にし、私たちは施工プロセスの一つひとつに細心の配慮を行っています。
騒音測定の概要
本現場では客観的な効果検証を行うため、「蓄電設備の設置前の暗騒音(環境音)」と、「防音壁設置後に設備を稼働させた状態の騒音値」の2段階で測定を実施しました。
今回は既設の防音ボックスが他社製であり、詳細な音響透過データが事前に把握できなかったため、シミュレーションによる机上予測は行わず、実際の測定データによる厳密な比較検証を行っています。事前に騒音予測が立てにくい現場であっても、稼働前後の確かな数値を記録しておくことは、その後の安定運用や将来の追加対策における確固たる判断材料となります。
2025年7月15日の設置前測定では、計画地周辺のA〜Iの9地点で暗騒音を測定し、43.7〜48.4dBを記録しました。その後、設備の稼働開始および防音壁の施工完了を経て、2026年7月15日に同地点にて再測定を行いました。
| 測定地点 | 設置前の環境音 | 設備稼働・防音壁設置後 |
|---|---|---|
| A | 43.8dB | 54.0dB |
| B | 43.7dB | 53.3dB |
| C | 45.6dB | 51.9dB |
| D | 44.2dB | 46.0dB |
| E | 48.4dB | 46.1dB |
| F | 44.5dB | 49.1dB |
| G | 43.7dB | 47.2dB |
| H | 44.8dB | 50.9dB |
| I | 45.6dB | 52.8dB |
| J | —(施工後に追加) | 59.6dB |
防音壁を設置し、全設備が稼働している状態での測定値は、敷地周囲(A〜I地点)で46.0〜54.0dBとなりました。また、施工後には防音壁のすぐ至近(J地点)での測定も追加し、ここでは59.6dBを記録しています。
※設置前と比較して数値が上がっているように見えますが、設置前の測定値は「設備が全く動いていない状態の周囲環境音(暗騒音)」であるためです。
大容量のPCS本体や換気設備・エアコンがフル稼働している状態でありながら、防音壁のすぐ目の前(J地点)で59.6dB(一般的な日常会話と同等レベル)、敷地境界の各地点(A〜I地点)では40dB台後半〜50dB台前半という、閑静な住宅街の昼間環境基準にも十分適合する極めて静かな水準に抑え込まれています。住宅地への音の影響を心配することなく、設備を安心して稼働できる防音効果が実証されました。
施工後の評価
こうして、高さ4m・総重量約5.6tにおよぶ大規模防音壁の据え付けは、無事に完了しました。完成後の外観はアルミシルバーで美しく統一され、広い壁面でありながら部材の継ぎ目が揃った端正な仕上がりとなりました。面積が大きく施設全体の景観を左右するからこそ、防音性能だけでなく周囲に威圧感を与えない意匠性にも配慮しています。
施工後、お施主様からは「ここまで立派で精緻な防音壁は見たことがない」「機能性だけでなく外観が非常に美しく、安心した」と、大変高い評価をいただくことができました。
防音設備は、単に音を止めるだけでなく、施設を構成する建築物の一部として長期間にわたり存在し続けます。特に屋外にそびえ立つ大型防音壁においては、「確かな遮音性能」はもちろんのこと、「構造上の安全性」「メンテナンス性」「周囲から見た美観」までを高い次元で満たすことが成功の条件といえるでしょう。
今回の事例のポイント
今回の事例から、蓄電施設やPCS設備の騒音対策を計画する際に押さえておくべきポイントを整理します。
-
対策する音源を明確にする
蓄電池本体、PCS、変圧器、付帯する空調・換気設備など、施設内のどの機器からどのような音が発生しているかを正確に切り分ける。
-
音圧(デシベル)だけでなく「音の性質」に着目する
冷却ファンの風切り音やインバータ特有の高周波電磁音など、数値以上に「人間の耳につきやすい音」の特性を踏まえて対策を練る。 -
既設対策の仕様を確認する
すでに防音ボックスがある場合でも、換気口や開口部からの音漏れ、空調機器の稼働音など、見落としがちな盲点を洗い出す。
-
設備の配置と保守空間を踏まえて囲い方を決める
防音性能を高めることだけに捉われず、点検扉の配置、機器との離隔距離、放熱性など、長期運用を見据えた空間設計を行う。
-
屋外の高い壁は構造面も重視する
風荷重を計算し、控え柱の本数だけでなく、水平材やブレース(斜材)を用いたトラス構造によって荷重を基礎へ効率的に逃がす設計を行う。
-
住宅地の施工条件を事前に確認する
進入路の車幅制限、荷降ろし場所の確保、他工区との工程調整など、近隣や現場に負担をかけない搬入計画を組む。
-
測定条件を区別して記録する
設備未稼働時の環境音と稼働時の数値を明確に区別し、適切な基準値に基づいて効果判定を行う。
蓄電施設の防音対策では、単にパネルを並べるだけでなく、「音源」「周辺環境」「設備の運用性」「耐風構造」「施工条件」を一つひとつ丁寧に紐解き、計画全体へ反映させることが成功の要となります。
まとめ
本記事では、神奈川県藤沢市の蓄電施設において、パワーコンディショナー(PCS)の周囲を囲う四周防音壁の施工事例をご紹介しました。
住宅地に近接する設備において、稼働後に騒音トラブルが発生した場合、追加工事のコストや近隣との関係修復には多大な労力を要します。今回の事例は、「稼働後」ではなく「設計段階」からリスクを予測し、防音ボックスと防音壁による二重の対策を講じたことで、確かな静粛性と近隣への安心を先回りして確保できた好例といえます。
また、大面積の屋外防音壁だからこそ、単に音を遮るだけでなく、強風に耐えうる立体的な支持構造や、施設の景観に溶け込む端正な外観にも徹底してこだわりました。
新たに設備を計画する際は、音が出てから対処するのではなく、「初期段階で音源と周辺環境を正しく見極めること」。それこそが、長期にわたって施設を安全かつ円滑に稼働させ続けるための最大のポイントと言えるでしょう。
蓄電施設・設備機器の騒音対策はブルアンドベアへご相談ください
ブルアンドベアでは、現地での精密な騒音測定から、現場環境に合わせたオーダーメイドの防音設計・施工、施工後の効果測定に至るまでワンストップで承っております。
「新設する蓄電設備や大型機器の騒音が近隣に影響しないか心配」
「住宅地に近い現場で、どの設備に対してどこまで対策すべきか分からない」
「風圧に耐えられる大型の防音壁を安全に設計・施工してほしい」
といった計画初期段階からのご相談も大歓迎です。蓄電施設や工場、各種設備機器の騒音問題でお悩みの事業者様・ご担当者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。